塀とフェンスには様々な役割があります。
転落防止のような安全性に関する役割もありますし、住宅のデザインとして使う場合もあるでしょう。
しかし、最もシビアな使われ方は隣地境界線の間仕切りではないでしょうか。
隣地境界線は隣家との土地の接点であり、土地の権利に関係するからです。
そのため、隣地境界線に使う塀やフェンスは、なおさらに神経を使わなければいけません。
では、どのように塀とフェンスを設置すれば良いのでしょう。
そこで、この記事では隣地境界線に設置する塀とフェンスにスポットを当てて解説しようと思います。
隣地境界線とは何か

まずは隣地境界線とは何かを確認しておきましょう。
隣地境界線とは
隣地境界線とは自分の家の敷地と隣家の敷地の境界を示す線です。
この線は単に「敷地がここまで」であることを示すだけではありません。
土地に関する権利や義務などの範囲をも示すのです。
例えば、敷地を舗装しようとしても隣地境界線の範囲であるのが一般的です。
境界線を越えた場所は自分の権利が無いので、勝手にいじってはいけません。
隣地境界線は一般には「境界杭」や「境界標」で判断されます。
しかし、隣地境界線を確認する方法はこれ以外にもあります。具体的には次の通りです。
①地積測量図を確認する
②境界確認の資料を確認する
③土地家屋調査士に測量を頼む
隣地境界線はなぜ重要か
前述のように、隣地境界線は隣家の土地も絡むだけに非常に重要です。
こちらの権利と同様に、隣家にも権利があるからです。
隣家においても、こちらの敷地までは干渉しません。
隣地境界線を越えられないからです。
他にも、土地は財産で権利が発生しますし、税金も払わなくてはいけません。
また、次世代に遺す資産でもあります。
仮に、隣地境界線をいい加減にして財産を遺す場合、財産を受け継いだ方も困ることでしょう。
例えば、受け継いだいい加減な土地に家を建てるならば、家屋に関しても影響し得るからです。
ちなみに、首都圏の土地の価格は非常に高く、坪単価が100万円を超える地域が珍しくありません。
仮に隣地境界線に関する手違いがあったのならば、財産的にも経済的にも大きな問題にもなり得るでしょう。
隣地境界線のコンクリートブロックの積み方

このように隣地境界線に関する問題は非常にデリケートなため、設置する塀やフェンスも気を付けなければいけません。
そのため、ユーザーの立場としても隣地境界線の塀やフェンスについても知っておくべきです。
塀やフェンスは設置の条件によってすいぶん状況が変わります。
特に、ブロックの積み方によって大きく異なるのです。
そこで、ここでは隣地境界線部分のブロック塀の積み方について紹介しましょう。
積み方について
ブロック塀は基礎を作ってコンクリートブロックを積み上げて完成…というように簡単には行きません。
むしろ、多くの場合が隣地境界線に関係するため、施工には精度が必要とされます。
例えば、コンクリートブロックには厚みがありますが、いい加減に施工するとブロックそのものが隣地境界を越えてしまうのです。
さて、隣地境界線の位置にブロック塀を作る際のブロックの積み方は次の3通りです。
①芯積み
②内積み
③外積み
積み方の特徴があり、メリットとデメリットもそれぞれにあります。
それらの特徴とはどのようなものでしょうか。
芯積みとは
芯積みとは、隣地境界線とブロックの中心を重ね合わせた積み方です。
ブロック塀は隣家との共有財産になります。
内積みとは
内積みとは隣地境界線の内側にブロック塀を作る積み方です。
隣地境界から手前側に建てるので、ブロック塀は自分の所有となります。
ただし、所有権とともに責任まで負うことになるので、トラブル発生の際には対応をしなければいけません。
外積みとは
外積みとは隣地境界線の外側にブロック塀を作る積み方です。
ブロック塀全体が隣家の敷地内に立つことになるので、隣家が所有することになります。
芯積みのメリット
ここで芯積みのメリットを取り上げましょう。
費用を折半にできる
芯積みは隣家との隣地境界線の上に建てて共有することになるので、設置する費用を折半することができます。
塀の高さや長さによって費用は変わりますが、設置費用が半額になることは大きなメリットです。
また、メンテナンスも半額にすることが可能です。
例えば、ウッドフェンスを立てた場合には定期的メンテナンスが欠かせません。
メンテナンスは主に塗装となりますが、意外に高額な費用が発生します。
そのようなメンテナンス費用も半額にできる点も芯積みのメリットと言えるでしょう。
使える敷地が少し広くなる
ブロック塀の厚さは高さによって異なりますが、少なくとも12cmの厚さがあります。
そして、芯積みの場合はブロック塀の半分だけ外に出るので、敷地は少しだけ広く使えます。
ただ、ブロック塀の半分の広さと言っても、塀が長くなれば広くなるスペースも広がります。
意外に有効となるスペースは広いので馬鹿にはできません。
芯積みのデメリット
次に、芯積みのデメリットを挙げます。
好みのブロックやフェンスが設置しにくい
前にも述べたように、芯積みの塀とフェンスは隣地境界線の上に建てるため共有財産です。
隣家との共有となるため、自分の好みのブロックやフェンスが設置しにくくなります。
例えば、こちらが「プライバシーが気になるため目隠しフェンスにしたい」と仮に言ったとしても、先方が「日当たりが悪くなるから目隠しは困る」と言ったならば、目隠しフェンスの設置は難しくなるのです。
表裏のあるフェンスを使いにくい
フェンスは表裏があるタイプがあります。
良い例が自在柱のフェンスで、柱が付くのが裏側です。
芯積みの場合には権利が隣家と同じになるので、お互いが「表側にしたい」と主張すれば、こちらの主張が通らない場合もあり得ます。
そうなると、間柱タイプのフェンスを使うことになります。
つまり、使えるフェンスが限定されるのです。
また、高さのあるフェンスには控え柱の付くタイプもあります。
裏側に控え柱が立つのですが、控え柱が敷地側に来るので嫌がられることでしょう。
隣家との交渉が難しい
後述しますが、隣地境界線の上に塀やフェンスを建てる場合には隣家との交渉が必要です。
では、交渉をすれば簡単に隣家の了承を得られるかというと、必ずしも容易とは言えません。
特に、芯積みの場合は隣家も費用負担が必要ですし、若干とは言え敷地が狭くなってしまいます。
また、仮に塀やフェンスの必要性を感じていなければ、話の通る可能性も低くなり、許可を得ることが難しくなるでしょう。
勝手には改修ができない
芯積みの場合は共有することになるので、勝手には改修ができません。
あくまでも共有財産です。
隣家の財産を壊すことができないように、勝手には改修ができないのです。
隣家とのトラブルに発展しやすい
芯積みは隣家との共有財産なので、それだけにトラブルになりやすいです。
特に、隣家に弊害が起こった場合には危険となるでしょう。
こちらが提案して説得して建てた塀で、その上で迷惑を掛けたのならば更に危険です。
内積みのメリット
内積みのメリットについて取り上げましょう。
基本的には自分に権利がある
内積みは自分の土地に建てるので、塀とフェンスに関する権利は自分の方にあります。
そのため、芯積みの場合よりも塀とフェンスに関する自由度が増します。
ただし、権利とともに責任が発生します。
アクシデントが発生したならば、自腹での対応を求められるかも知れません。
比較的好きな塀を作りやすい
権利はこちらにあるので、芯積みよりも自由な塀とフェンスを作りやすいです。
デザインや色などを自分好みにしやすいのです。
ただ、いくら自由があるとは言っても、隣家を完全に無視することはできません。
良識を持った対処が望まれます。
改修も比較的自由
内積みの場合は改修も比較的自由です。
古くなった時など、芯積みの場合は協議を慎重に運ばなければいけない一方ですが、内積みは比較的自由にできます。
ただし、いくら自由と言っても配慮は必要です。
工事の時には迷惑を掛けるので、挨拶と説明はきちんと行わなければいけません。
内積みのデメリット
次は内積みのデメリットです。
費用を負担しなければいけない
内積みは隣地境界線の内側に設置するので、自分の所有物になります。
そのため、芯積みのように費用が折半になることはありません。
ブロック塀の工事は布基礎の工事にはじまる大きな工事です。
その費用の全額を被ることは、大きな経済的ダメージにもなり得るでしょう。
使える敷地が狭い
内積みの場合には隣地境界線の手前側にブロックを積むので、使える面積が狭くなってしまいます。
ブロック塀の厚さは12cm程度あるので、その半分だけ芯積みよりも狭くなるのです。
ちなみに、ブロック塀を築く場合には、隣地境界線から若干のセットバックを設ける場合が多いです。
そのセットバック分まで考えると、「思っているよりも狭くなった」というケースは多いかも知れません。
外積みについて
外積みは隣地境界の外にブロックを積む方法です。
隣地境界線を越えているため、隣家の所有物になります。
塀に関する権利も責任も隣家の所有です。
メリットとしては建てる費用が掛からないこと、デメリットとしては隣家の好きな塀やフェンスが建てられる可能性があります。
ケースによっては迷惑に思うこともあるかも知れません。
隣地境界線に塀やフェンスを設置する上での注意点

塀の積み方によって権利が変わるので、勝手に建てる訳には行きません。
そこで、隣地境界線に塀やフェンスを設置する上での注意点を挙げていきます。
隣家との協議は不可欠
隣地境界線部分に塀やフェンスを設置する場合には隣家と協議をしなければいけません。
「内積みであれば自宅側に着けるから問題ない」との判断もあるかも知れませんが、日当たりや風通しで隣家に迷惑を掛ける可能性もあります。
設置後に隣家から苦情が来る可能性があるので、内積みであっても工事の内容を説明し了解を取りましょう。
最初に決めておきたいこと
隣家との協議は単なる挨拶だけではいけません。
決めておきたい項目をあらかじめ挙げて、それぞれについて了解を取らなければいけないのです。
では、どのような点を決めておくべきでしょうか。
塀の仕様
まず挙げられるのが、設置する塀やフェンスの仕様です。
塀はどのように作るのか、フェンスのサイズやデザインはどうなるのかなど、細かい部分まで説明するべきでしょう。
また、説明の際にはブロック塀の控え壁の有無なども確認して伝えましょう。
破損時の対応や改修をどのようにするか
破損時の対応方法も最初に確認しておきましょう。
また、改修に関しても事前に方向性を決めておいた方がベターです。
特に費用の負担は揉める原因になります。
発生費用は工事内容によって違うでしょうが、事前に協議しておきましょう。
フェンスの使い方について
塀やフェンスの使い方についても協議しておいた方がベターです。
特に禁止事項は重要です。
例えば、フェンスの上に布団を干したり、フラワーポッドを多く取り付けたりすることなどがあります。
ちなみに、フェンスは使い方によっては製品寿命が縮みます。
使い方が悪くて壊れると、修理費用をめぐって衝突するかも知れません。
そのような衝突を避けるためにも、事前協議で禁止事項を明確に決めておきましょう。
トラブルを避けるためにするべきこと
隣家との事前の協議は不可欠ですが、それとは別にトラブル予防のためにすべきことがあります。
どのような準備をするべきなのでしょうか。
事前に隣地境界線をはっきりさせる
何よりも重要なのが「事前に隣地境界線をはっきりさせる」ことです。
隣地境界線がはっきり分かれていれば、お互いの土地に関する権利の範囲も明確になるため、トラブルに発展しにくくなります。
また、隣地境界線がはっきりしていれが責任の所在まで明確になります。
アクシデントが起きてもスムーズに対処できるようになるでしょう。
隣家への影響と対策を考えておく
塀にしてもフェンスにしても、隣家との間に設置すれば、少なからず影響があります。
例えば、日当たりや風通しが悪くなるかも知れませんし、圧迫感を感じるかも知れません。
そのため、そのような弊害に対する予防策やトラブルとなった場合の対策も練っておくべきでしょう。
日当たりや風通しの問題においては格子の隙間が大きいフェンスにするなどして、影響を最小限に抑えるなど提案ができると思われます。
権利があれば自由なのか
ブロック塀は権利をめぐるトラブルが少なくありません。
芯積みは共有財産ということになりますが、使用方法などによって衝突することもあり得ます。
先に挙げたような布団やフラワーポッドの件に関しては、ルーズな人は「まぁ、いいじゃないか」と考えるかも知れません。
また、製品寿命を縮めることが分からない人もいることでしょう。
では、内積みにすれば権利が全部こちらの所有になるから自由に何でもできると考えるべきでしょうか。
この考え方で通すならばトラブルに発展しかねないので要注意です。
先に挙げたように、内積みのブロック塀であっても、目隠しフェンスを付けるならば日照と風通しの点で問題となります。
人によっては圧迫感を感じ、自宅の居心地まで悪くなるかも知れません。
そのため、内積みであっても隣家と協議をすべきです。
協議をすれば、隣家にとって何が迷惑なのかも分かるようになり、無駄な衝突も減ります。
隣家はこれからも仲良くあるべきです。説明だけでなく聞き取ることも忘れずにしましょう。
どのようなフェンスが良いか

隣地境界線に関してはデリケートな問題があります。
では、どのようなフェンスが隣地境界線に向くのでしょうか。
フェンスを選ぶコツと、おすすめのフェンスを紹介します。
フェンスを選ぶコツ
まずはフェンスを選ぶコツを紹介します。
コストに気を付ける
隣地境界のフェンスは隣家と費用を折半することもあるので、コストには気を付けるべきでしょう。
仮に、先方が予想していた以上の価格のフェンスを選んでしまったならば、隣家との関係が悪くなるかも知れないからです。
特に、フェンスの設置によって相手が不利益を被る場合には、費用負担の話が相手の神経を逆なでしてしまいます。
感情的になる危険性があるので、十分に注意をしましょう。
シンプルなデザインがおすすめ
自宅の周囲に設置するフェンスであれば自分の好みのデザインでも良いでしょう。
例えば、自転車置き場やカーポート、あるいはテラス屋根などと雰囲気を合わせるのも良いかも知れません。
ところが、仮に芯積みで塀とフェンスを設置するのであれば、こちらの所有物とは言えません。
そのため、好みのフェンスを設置することが難しくなり得るのです。
その点、飽きの来ないシンプルなデザインであれば隣家の了解も得られやすいです。
個性的なフェンスは敢えて避けた方が得策です。
おすすめのフェンス
このように、フェンスを選ぶ際にはコストとデザインに気を付けるべきです。
では、具体的にはどのようなフェンスが隣地境界線への設置に向いているのでしょうか。
メッシュフェンス
メッシュフェンスはスチール製の溶接金網のフェンスです。
見た感じは強度的に難がありそうに見えますが、強度の高いスチール線材を使い、線材の交点はすべて溶接してあります。
そのため、アルミ製品と比較しても強度的には引けを取りません。
また、コストパフォーマンス性が高くてスッキリしたデザインです。
隣地境界線の仕切りに向くおすすめのフェンスです。
ラチスのウッドフェンス
木のエクステリアは柔らかい雰囲気を持っており、しかもファンは多いです。
また、ラチスパネルは飽きの来ないデザイン。人気は高いです。
さて、隣地境界線のフェンスにもラチスのウッドフェンスが向きます。
コストも抑えられ、デザイン的にもスッキリしているからです。
ただし、ウッド製品は定期的な塗装が必要です。
隣地境界線に設置するのであれば、メンテナンスの費用負担を話し合っておくべきでしょう。
置くだけのフェンス
住宅用のフェンスは基本的にはコンクリートブロックに設置します。
ブロックの穴に支柱を立ててフェンスを張るのです。
ただ、この工法の場合はモルタルで固めてしまうので、改修や撤去が簡単ではありません。
置いて設置できるフェンスのメリットは移動や撤去、そして修繕が容易であることです。
仮に、隣家と意見が合わなかった場合は撤去も可能。「取返しの付かない事態」にはなりにくいのです。
まとめ
隣地境界部分の塀とフェンスについて取り上げました。
ブロック塀の積み方や注意点などが分かったことと思います。
また、どのようなフェンスが良いか把握できた人も多いのではないでしょうか。
他にも、なぜブロック塀に関するトラブルが多いのかが分かった人もいることでしょう。
いずれにせよ、ブロック塀やフェンスを隣地境界緯線に設置する時は権利が絡みます。
隣家にも影響が大きいことも少なくありません。
積み方によって権利関係が変わりますが、権利を主張するばかりではなく、隣家の話を聞くことも必要となるでしょう。










