高齢者の生活には住宅設備の安全性は必要不可欠です。

これは外構も例外ではなく、玄関アプローチ部分にも当てはまります。
そして、その安全対策となるのがスロープです。

しかし、住宅のすべてがスロープを備えているとは限りません。
まだ階段で上り下りする玄関まわりの家は多いのです。

それでは、階段で上がる玄関アプローチを階段に変えることは可能なのでしょうか。

ここでは玄関部分が階段で構成されている住宅の、スロープへのリフォームについて解説します。

階段はスロープに変えられるか

階段はスロープに変えられるか

階段はスロープに変えられるかを取り上げます。

階段からスロープへの交換は可能

結論から言うならば、階段をスロープに変えることは可能です。

方法としては2種類あります。

1つ目は既存の玄関まわりを一旦撤去してスロープを設置する方法です。
玄関まわり全部が一新するので非常にきれいに仕上がります。
ただし、撤去の手間があるのでコストは高めになってしまいます。

2つ目は既存の階段にスロープを後付けする方法です。
階段の全体を撤去するよりは工事が容易になります。

階段に敷くスロープ商品もある

スロープは工事で付けるものだけではありません。
使う時だけ付けられるタイプもあります。

これはスチール製の段差解消スロープや階段にセットして使います。

この製品のメリットは工事の必要がない点です。
スロープの工事は大掛かりになるので費用が多く掛かってしまいます。

しかし、この段差解消スロープであれば既存の階段にセットするので費用が発生しません。

ただし、階段の段差に合わせた傾斜になるので、思うような傾斜とならない場合があります。
急な斜面しかできない場合、車いすには向かないかも知れません。

スロープはどんな人が利用するのか

スロープはどんな人が利用するのか

スロープはお年寄りだけが使うかというと決してそうではありません。

そのため、階段からスロープへの変更にあたり、使う人について改めて考える必要があります。

ここでは誰がスロープを使うかを挙げてみましょう。

それによって、スロープに要求される条件が現れます。
どのような条件が現れるかも取り上げましょう。

車いすを使う人

第1に挙げられるのが、車いすを使う人です。
車いすは自力で動かす場合もあれば、介助者が押す場合もあります。

車いすの操作を問題なく行うために共通する条件は「軽い力で動かせることと」と「安全に扱えること」です。
上る時には労力をかけずに、下るときには速くならずに…という点が条件となるのです。

そして、これによってスロープに求められる条件が浮かび上がります。
つまり、スロープの角度と曲がる場所の条件が絞れるのです。

杖を使う人

杖を使う人にとって怖いことには「転倒」があります。

そのため、杖を使う人を考えるならば、転倒を防ぐことが重要な条件となります。
つまり、段差のないこととスリップのしにくい構造が求められるのです。

なお、スリップは降雪や路面が凍結した場合にも起こります。
こちらにも対策が必要です。

小さい子供

小さい子供はよく走り回り、何にでも興味を持ちます。
手すりがあれば、よじ登ろうとするかも知れません。

そのため、スロープには滑らないこと、つまずかないことが求められるでしょう。

また、手すりは登りにくい形状を考えなければいけませんし、転落防止の構造も必要とされるでしょう。

ベビーカーを使う人

ベビーカーを使う人にとって怖いことは「加速」「横転」「ガタガタ揺れる」などがあるでしょう。

赤ちゃんを乗せた状態でスピードが出ることは危険です。
横転も危険ですし、揺れがひどいのも良くありません。

加速は防げないので、スピードが出る前に止まれること、横転しにくい構造、揺れにくい構造が条件として上がります。

具体的には、スロープの長さやカーブの半径、そして路面の状態の条件が浮かび上がって来るでしょう。

ちなみに、ベビーカーは2人用のタイプもあります。
スロープの幅の必要条件にも影響するでしょう。

台車で荷物を運ぶ人

台車で荷物を運ぶ人にとって危険なことは「加速」と「横転」であると思われます。

また、欲しい条件としては「軽い力で操作できること」ではないでしょうか。
そして、スリップも避けなければいけません。

そのため、スロープの傾斜角、長さ、カーブの半径、路面状況などが設置の条件として浮かびます。

自転車

段差があると自転車は持ち上げなければいけません。
これは結構な労働です。

特に、今は電動アシストがあり、自転車そのものが重くなっています。

その点、スロープがあれば段差を回避できるので便利です。

自転車の場合はそれほどの条件はありませんが、やはりスリップは避けたいので、路面の工夫は必要です。

スロープにどのような物理的作用があるか

次にどのような物理的な作用があるか挙げてみましょう。

また、それによって発生する条件もあります。

重力

物体が落ちる時にはスピードを上げながら落ちて行きます。
これは重力には加速度に関する法則があるからです。

スロープの場合も同じで、下る時にはスピードを上げ続けるのです。

当然ながら、スピードが上がることは危険なので、どこかで止めなければいけません。

そのため、スロープを作る時には「止まれる場所」を作るべきでしょう。

振動

スロープを考えるときに意外に重要なのは「振動」です。

振動と聞くと「ガタガタ揺れる」程度しか思いつかないかも知れませんが、それだけではありません
時として大きな揺れが発生することがあるのです。

また、台車に重量物を載せて運ぶ場合、振動が大きくなると荷物が崩れるかも知れません。

そのため、振動は可能な限り発生させないようにするのがベターでしょう。

スロープの素材や表面の仕上げを工夫して、安全な状態にすることが大切です。

遠心力

遠心力は物体を回す時に働く力です。
バケツに水を入れて回転させても中の水が落ちませんが、これは遠心力が働くからです。

車いすやベビーカーにも遠心力が働く場合があります。
そのため、スロープには過度な遠心力を発生させない工夫が必要となります。

カーブを緩やかにするなどの対策が必要となるでしょう。

スロープのリフォームで考えるべき安全面のポイント

スロープのリフォームで考えるべきポイント

スロープの設置には様々な条件が発生します。

スロープはそれらをクリアしながら設置を考えなければいけません。

では、実際にリフォームをしてスロープを後付けする場合には、どうするべきでしょうか。

ここでは、スロープを作る具体的な方法と、それに関するアイデアを挙げてみましょう。

滑りにくくする

スロープが滑ると大きな事故に繋がります。
車いすにしても、ベビーカーにしても、滑ると走行が困難になってしまいます。

杖を使っている人は転倒リスクが大きくなります。
お年寄りはケガのリスクもあるため非常に危険です。

そのため、スロープには滑りにくい処理をした材料を使わなければいけません。

ちなみに、滑りにくいのは晴天の時だけではありません。
雨天でもスロープを使うので、水に濡れても滑りにくい材料を使う必要があります。

つまずきにくくする

つまずきにくくするためには段差の解消が条件です。

そのため、スロープに使う材料も考えなければいけません。
例えば、石材のような表面がゴツゴツした素材は、段差になりがちなので、あまり望ましくはないでしょう。

また、杖を使う人への配慮も必要です。
スロープの面に杖が引っかかるような部分を作ってしまうと、バランスを崩す可能性が出て来ます。
安心して杖が使えるように、路面をフラットにするべきです。

無駄な振動を発生させない

スロープの表面がゴツゴツしていると、車いすやベビーカーに余計な振動が加わってしまいます。

そして、振動が加わり続けると、揺れが大きくなるため危険です。
場合によっては転倒するかも知れません。

そのため、スロープは無駄な振動が発生しないように、平滑に仕上げると良いでしょう。

手すりを設置する

スロープでの歩行の安全確保のためにも、手すりは絶対に必要です。

手すりに求められる条件は「握りやすさ」と「強度」などです。
握りやすくするためには、プラスチックやウッド素材を使って手触りを良くすると、使用感が良くなるのでおすすめです。

また、強度に関しては人が上に乗っても変形や破壊が起きないレベルが望まれます。

ちなみに、手すりには「JIS T 9282 福祉用具・固定形手すり」という規格があります。
設計の際に参照すると良いでしょう。

転落防止の構造とする

スロープは小さな子供も使います。
そのため、子どもに対する配慮が必要です。

特に懸念されるのが、スロープの脇からの転落です。
小さい子供の場合は手すりの下をくぐって転落する場合が考えられるからです。

そのような事態の防止のためには、手すりの下にも転落予防のための手段が必要です。
格子やスクリーンなどがあれば良いでしょう。

使いやすいスロープにするためのポイント

スロープの設置には使いやすさの面から考えることも大切です。

次に、スロープを使いやすくするためのポイントについて解説します。

傾斜角は適切に

スロープは勾配が急だと車いすでの走行が困難になります。
上る際には腕力が必要ですし、下る際には止まりにくいからです。

そのため、勾配は適切に取らなければいけません。

また、スロープの勾配は法律で規定されています。
1つ目が建築基準法で2つ目がバリアフリー法です。
この内、建築基準法では勾配は12.8%、バリアフリー法では屋外が6.7%としています。

ただし、これはあくまでも法律によるものです。
最低限度と考えるべきでしょう。

幅は余裕を見る

車いすやベビーカーを考えるのであればスロープの幅は余裕を持って考えた方が無難です。

スロープの幅を考えるのであれば、法規と車いすのJIS基準を調べれば数値は出せると思うかも知れませんが、それでも余裕は欲しいです。

例えば、2人乗りのベビーカーがありますが、2人用となっているだけあって横幅が広く、スロープもそれだけ広くなくてはいけません。

また、JIS規格は産業の発展や新技術の登場によって更新されます。
それに合わせて規定する数値も変わるかも知れません。
車いすの大型化もあり得ない話ではないのです。

規格の範囲内だから大丈夫、とは行かない場合もありますので、幅には余裕を持たせましょう。

休み場を作る

スロープには休み場が必要です。

車いすの走行には腕力が必要であり、長い坂道だと体力を消耗してしまうからです。
特にお年寄りにはキツイことでしょう。

しかし、休み場があればスロープが使いやすくなります。

また、車いすは重力が作用して降りる際には早くなります。
スロープが長ければそれだけ加速してしまうのです。

しかし、休み場があればその地点で止まることが可能になり、加速する距離は短くなるので走行は安全になります。

介助者が動きやすいように

スロープを設置する時には介助者の動きやすさも考えるべきでしょう。

特に、スロープの幅は大切です。
介助者は車いすの前に行くこともあるからです。

スロープがギリギリでは前にまわることができません。
介助者にとって、使いづらくなってしまうのです。

屋根の設置

スロープに屋根があると雨に濡れずに済みます。
雪が降ってもスロープを雪かきする必要がないのでおすすめです。

ちなみに、屋根は雨樋が意外と重要です。
降り注いだ雨水を集めてくれるからです。

また、屋根は積雪にも対応しなければいけません。

テラス屋根を使って対応する場合には、積雪強度を確認して製品を選びましょう。

照明を付ける

スロープには照明が必要です。
特に長いスロープになると光源から離れてしまうので、複数箇所の照明器が必要となります。

フットライトもあると安全性がアップするのでおすすめです。

また、照明器は安全性だけに有用なのではありません。
デザイン面においても重要な役割を果たします。

照明は夜間のエクステリアを照らし、魅せるポイントになります。

玄関アプローチ部分は印象に残りやすい部分です。
美しくライトアップされたエクステリアは訪れる人に強く残ることでしょう。

融雪装置の設置

雪の降る地域や路面凍結が懸念される地域では、融雪装置を設置すると安全性がアップします。

おすすめなのがロードヒーティング装置です。
スロープの下に融雪パイプを埋設させて、スロープ全体の雪を解かすというものです。
雪は溶けて流れるので、雪かきの必要もありません。

設置のためのコストは掛かりますが、雪や凍結による転倒リスクが大幅に削減できるので、おすすめです。

スロープの美観のポイント

安全面や使いやすさとは直接は関係がないのですが、家づくりには美観への意識が必要です。

これはスロープも例外ではありません。

そこで、ここではスロープの美観について挙げてみましょう。

色彩

スロープは門から入って最初の段階で目に入る部分。印象に残りやすいのでデザインは重要です。
その中でも色彩は重要な要素となるでしょう。

色彩を決めるにあたっては、家屋とのコーディネートを意識すると統一感が出るのでおすすめです。
色は飽きの来ない色を選ぶのも良いでしょう。

なお、オリジナリティを求めるのも良いのですが、あまりにも突飛な色とすると周囲から浮いてしまいます。
近隣から嫌な目で見られることもあり得るので、突飛な色は避けた方が無難でしょう。

質感

スロープの質感は基本的には周囲に合わせると、トータルでコーディネートが出来るのでおすすめです。
例えば、レンガや石材でアプローチを飾るのであれば、似た質感の素材が良いでしょう。

ただし、質感は安全性よりも重視されてはいけません。
最重要なのは安全性であると覚えましょう。

転ばないように、滑らないようになる質感の素材を選んで作ることは何よりも大切なのです。

素材

素材にこだわるのも面白いです。

エクステリアを構成する素材は石材や木材、そしてタイルなどもあります。
組み合わせて使えば個性的で面白いスロープができるでしょう。

ただし、前に挙げた条件を無視して作れば危険なスロープとなってしまいます。

例えば、表面がツルツルなタイルを使えば、雨の日の転倒リスクが高まります。
お年寄りの転倒は骨折などの大ケガに繋がるので危険です。

素材選びは面白いですが、スロープに求められる条件を考えながら選ぶことが必要です。

フォルム

スロープは直線的なデザインでも機能的で良いのですが、敢えて曲線をフォルムに取り込むと面白くなります。

特に、レトロな外構に似合うことでしょう。

ただし、カーブを急にすると遠心力が働く原因にもなります。
危険ですので「緩さ」を忘れずに曲線を決めましょう。

工事に際して覚えておきたいこと

スロープの工事に際して覚えておきたいこと

スロープ選びについては安全面やデザイン面など、様々な点から考える必要があります。

しかし、スロープ選びと合わせて工事をおこなう際もいくつか考慮しなければいけない点があります。

費用について

スロープへの交換は多額の費用が発生します。

そして、費用はシンプルであれば抑えられ、材料やデザインに凝ると上がります。

そのため、予算計画を立てることが必要です。

業者選定について

品質の高いリフォーム工事のためには、技術レベルの高い業者に依頼しなければいけません。
技術レベルが高ければ、難しい納まりであっても高品質で対応してくれるからです。

しかし、バリアフリーに関する工事は技術だけでは十分とは言えません。
福祉に関する知識も必要なのです。

福祉関連の建築には資格があります。
「福祉住環境コーディネーター」という資格で、この資格は東京商工会議所が認定する公的資格です。

福祉住環境コーディネーターの在籍する業者であれば、福祉の面からも信頼性の高い提案・アドバイスをしてくれます。
バリアフリー工事に当たっては非常に強い味方となるでしょう。

自治体の補助金制度

バリアフリー関連のリフォームには、自治体の補助金が付くケースが意外と多いです。

施工業者の指定など、利用にあたっては条件がありますが、費用の補助額が大きいのでメリットは非常に大きいです。

予算計画を検討する際には、ぜひとも自治体に確認しましょう。

ただし、自治体の補助金には予算枠があることが多く、あまり時間が経つと予算が無くなって受けられないケースもあり得ます。
補助金を確実に受けるためには早めの申告が必要です。

まとめ

スロープについて取り上げました。

スロープの必要条件などが分かったことと思います。
例えば、振動の話などは話として出ることが少なかったのではないでしょうか。

いずれにせよ、スロープには様々な条件をクリアしなければいけません。

階段にスロープを設置する際は、それぞれの条件を確認して仕様を決めましょう。